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オーストラリアン・ラブラドゥードルがかかりやすい病気とニチイ学館の取り組みについて

現在、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)を飼育中の方も、これから飼おうかと考え中の方も、ALがかかりやすい病気について気になっていることと思います。ニチイ学館で獣医師としてAL事業に関わるものとして、病気に関するご質問をいただくことがあります。 そこで、本記事では、ニチイ学館がAL事業を始めて12年の間に蓄積したデータを元に、ALがかかりやすい病気についてお話ししたいと思います。また、繁殖犬の遺伝子疾患に対する弊社の取り組みについても併せてご紹介します。不安や疑問を少しでも解消し、ALライフを是非楽しんでいただければと思います。

オーストラリアン・ラブラドゥードルと先祖犬の関係

犬の病気は人の病気と同様に多数ありますが、犬種によって好発疾病(なりやすい病気)があることから、多くの病気が何らかの形で遺伝的な要素を持っていると考えられています。

一般的に犬種を開発していく過程では、形質や性質を目的に合わせて選別するため、インブリード(血統が近い交配)による繁殖が行われます。そのため、遺伝的な疾病因子が集まりやすく、犬種によって発症しやすい病気が発現すると考えられます。

オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)には先祖犬として、以下の犬種が含まれます。

  1. ラブラドール・レトリバー
  2. プードル(スタンダード・ミニチュア・トイ)
  3. アイリッシュ・ウォータースパニエル
  4. カーリー・コーテッドレトリバー
  5. イングリッシュ・コッカースパニエル
  6. アメリカン・コッカースパニエル
①ラブラドール・レトリバー
②プードル
③アイリッシュ・ウォータースパニエル
④カーリー・コーテッドレトリバー
⑤⑥コッカースパニエル

開発当初はこれら6犬種が利用されていましたが、現在では①②⑤⑥の4犬種がグレーディングスキーム(ALの繁殖におけるグレードの手引き)にて認められております。

ALは純血種同士の単純なハイブリッド犬とは異なり、様々な戻し交配を行ったり、グレードの進んだALを交配させたりしながら複雑に世代を重ね、目的をもって確立されてきた犬種です。

ALもその他犬種と同様に、先祖犬が持っていた疾病因子を引き継いでいる可能性があり、特に現在もALの繁殖用として許可されているラブラドール・レトリバーやプードル、コッカースパニエルがかかりやすい病気については、ALも発症しやすいと言えます。

オーストラリアン・ラブラドゥードルの先祖犬がかかりやすい病気は?

犬種による好発疾病は非常にたくさんありますが、以下、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)の先祖犬がかかりやすい一般的な病気を一部抜粋してご紹介いたします。ALにとっても気をつけなければならない病気と言えるでしょう。

※出典:犬と猫の品種好発性疾患、出版社 : インターズー (2006/6/1)

後述する”ニチイ学館にて遺伝子検査を実施している疾患”や先天性疾患(生まれながらの疾患)、腫瘍については省いております。また遺伝性が不明の疾患や様々な要因が疑われる疾患(多因子性)が含まれます。

ラブラドール・レトリバー

  • 皮膚炎(アレルギー性、肢端舐性、脂漏症、天疱瘡、化膿性湿性皮膚炎、外耳炎等)
  • 副腎皮質機能亢進症
  • 慢性肝炎(銅蓄積症)
  • 特発性多発性関節炎
  • 飛節離断性骨関節炎
  • 肥大性骨異栄養症
  • 膝蓋骨内方脱臼
  • 軟骨症(肩骨、膝骨)
  • 肘関節形成不全症
  • 股関節形成不全症
  • 特発性てんかん
  • 白内障
  • 喉頭麻痺

プードル(ミニチュア、ミディアム、スタンダードが対象)

  • 心疾患(拡張型心筋症、弁膜症等)
  • 糖尿病
  • 副腎皮質機能亢進症
  • 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
  • 甲状腺機能低下症
  • 血液/免疫疾患(免疫介在性溶血性貧血、免疫介在性血小板減少症、好酸球性等)
  • レッグペルテス(大腿骨頭壊死症)
  • 膝蓋骨内方脱臼
  • 特発性てんかん
  • 椎間板疾患
  • 角膜ジストロフィー
  • 白内障
  • 緑内障
  • 尿石症(シュウ酸カルシウム、ストルバイト)
  • 気管虚脱

コッカースパニエル(イングリッシュ、アメリカン)

  • 心疾患(拡張型心筋症、弁膜症等)
  • 皮膚炎(アレルギー性、脂漏症、外耳炎等)
  • 副腎皮質機能亢進症
  • 甲状腺機能低下症
  • 慢性肝炎
  • 血液/免疫疾患(血友病、免疫介在性溶血性貧血、免疫介在性血小板減少症等)
  • 膝蓋骨外方脱臼
  • 特発性てんかん
  • 椎間板疾患
  • 白内障
  • 緑内障
  • 乾性角結膜炎
  • 角膜ジストロフィー
  • 瞬膜腺逸脱(チェリーアイ)
  • 尿石症(ケイ酸、ストルバイト)

非常にたくさんの病気があるように思えますが、他のどの犬種にも同様に、多数の好発疾患があります。ALについては、特に2犬種以上の先祖犬に共通に含まれる病気はリスクも高くなります。

ALのオーナー様が動物病院で獣医師からよく言われるのが、「ALを診たことがあまりないので、どのように判断して良いかわからない」という言葉です。そのような場合は、ぜひ先祖犬の名称をお伝えください。上記リストが早期発見の一助になることを期待いたします。

オーストラリアン・ラブラドゥードルの疾患データ

以下、ニチイ学館が現在までに集めたデータを元に、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)がかかりやすい病気の現状についてお伝えします。

ニチイ学館では事業開始当初から5,000頭以上のALを皆様の元に届けてきました。お届けしたALの疾病データも徐々に集まりつつあります。また、ALAJの法人会員としてご参加いただいているアニコム損保様にはALの保険加入数も多く、保険請求にて様々なデータが集まってきています。今回はこれらのデータをもとにALの疾患状況を紹介します。

ニチイ学館保有の疾患データ

まず、この12年で、ニチイ学館で繁殖し、オーナー様に届けられたALについて、オーナー様からのご報告を元に疾患の統計をご紹介します。すべての情報がフィードバックされているわけではないことや、高齢のALの情報提供が少ないこともあり、疾患情報も限られておりますことをご了承下さい。

なお、遺伝性疾患以外に環境要因によっても大きく左右される疾患や遺伝性が不明な疾患も含まれます。

1%以上の報告がある疾患

  • 外耳炎 ※割合は不明ですが多いです。
  • 皮膚炎(アレルギー性、舐性等)
  • 尿石症(ストルバイト結晶尿)
  • 膝蓋骨内方脱臼(1%程度)

0.2~1%の報告がある疾患(10頭以上の報告)

  • 特発性てんかん(0.3%)
  • アジソン病(0.3%)

これらの疾患の中でも、特に外耳炎や皮膚炎は、前述の通り、先祖犬からの影響もあり非常にリスクが高い犬種と言えます。また膝蓋骨内方脱臼については、他犬種においても小型犬種は非常にリスクが高く、アニコム損保と理研の研究調査によると、実にトイプードルの7頭に1頭(14.4%)に発症があるとの結果もあります。

アニコム損保と理研の共同研究結果

また、尿石症についても、プードルやコッカースパニエルに発症の多い疾患となっており、ALでも比較的発症が多くなっております。

尿石症の中でも特にストルバイト結晶尿が多く、これは尿のpH値が高くなると形成されやすくなり、尿のpH値は膀胱炎によって高くなったり、フードによって影響を受けたりすることもあります。他の子と同様のフードを食べていても個々の体質によって尿のpHが高くなり尿石ができることもありますので、尿石症のできやすい体質の子は予防も兼ねてフードを選定することが大切です。(尿石に関与するマグネシウム含有量やリンの含有量に影響します)

次に報告割合は大きく減りますが、特発性てんかんについても一部ご報告をいただいています。この疾患は犬の脳疾患においては発生率の高い疾患で、犬全体で約0.6~1.0%の発生率が推定されています。(アニコム損保調べでは犬全体の1.3%)

「犬猫のてんかん」 日医大医会誌 2022; 18(4)

アジソン病(副腎皮質機能低下症)は犬全体でみると非常に稀な病気ですが、実は全サイズのプードル(特にスタンダードプードル)に多いとされる疾患で、ALにおいても同様にやや発生が多くなっております。

これは原産国オーストラリアでも認識されており、犬種の偏り等から遺伝的な要因が疑われておりますが、遺伝様式が不明で遺伝子検査も不可能であり、非常に難しい疾患になっています。

犬の副腎皮質機能低下症の診断と治療

アニコム損保のデータ

次にアニコム損保の保険請求に基づく、ALの病気の現状をお伝えします。
特に若齢(0歳~5歳)にて保険請求されている疾患については以下の通りです。
(資料:アニコム保険請求に基づく疾患調査2016~2020年、対象契約数416頭)

プードルやラブラドール・レトリバー等の先祖犬と比較すると、同様の疾患が多い傾向となりますが、犬全体で比べると、外耳炎や皮膚炎、消化器症状による病院受診が多い傾向になります。

現時点ではALのデータは契約数が少ないことや、4歳までの若齢でのデータ(特に0~1歳のデータが多くを占める)であることから、今後も調査を続けることでより正確なデータが期待されます。

アニコム 家庭どうぶつ白書

オーストラリアン・ラブラドゥードルの遺伝性疾患を減らすためのニチイ学館の取り組み

ニチイ学館では、遺伝性が疑われる疾患のうち、検査可能な疾患については、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)の繁殖犬全頭に対して、事前に検査を実施しております。検査は大きく以下の2つに分かれます。

  • DNA検査 検査機関ホームページ: Orivet
  • 股関節形成不全および肘関節形成不全のリスク検査
    検査機関ホームページ: JAHD

DNA検査

まず、DNA検査について。

ALは前述の通り、複数の犬種の血統が含まれておりますので、それらの犬種の検査対象疾患は全て検査の対象となっております。

ニチイ学館では、繁殖対象犬について、オーストラリアの検査機関Orivetにて、現在検査が可能な31項目全てについて検査を実施した上で、繁殖に使用しております。検査済みの両親から生まれた仔犬達にはこれらの遺伝性疾患が発症するリスクはほぼありません。(ただし、突然変異や検査対象以外の遺伝子部位による発症は除きます)。
遺伝子検査項目はこちら

股関節形成不全および肘関節形成不全のリスク検査

次に股関節形成不全および肘関節形成不全のリスク検査は、日本の検査機関【JAHD】に検査を依頼しています。

股関節はスコア値として結果が返却されるため、DNA検査とは異なり、検査によって遺伝性が白黒はっきりつくものではございません。

したがって、繁殖に利用するALは股関節に問題がなく、スコア値の良いALのみを繁殖に利用いたします。また肘関節形成不全は「ノーマル」評価の正常な肘関節の犬のみを繁殖に利用いたします。いずれの疾患の場合も70%が遺伝的要因、30%が環境要因とされており、必ずしも遺伝性がすべてではありませんが、少しでも疾患リスクが下がるよう取り組みを継続しています。

現在これらの取り組みにより、ALは他犬種と比べても非常に股関節形成不全のリスクが低い犬種と評価されています。(発生率0.07%)
JAHD股関節検査報告書サンプルはこちら

しかしながら、生き物ですので、事前検査をしていてもその他様々な疾患が発症する可能性があります。

ニチイ学館ではそのような事例も含めて記録し、血統をさかのぼって調査しています。さらに検査機関だけでなく獣医大学の専門の先生にも助言をいただきながら、より健康的なALを家族に迎えてもらえるよう常に努力しています。

かかりやすい病気 まとめ

今回は、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)がかかりやすい病気と遺伝性疾患に関わるニチイ学館の取り組みについてご紹介いたしました。

これらの取り組みは事業開始時より継続して実施しておりますが、繁殖犬の事前検査によって予防できるのは無数にある疾患のほんの一部です。そのため、前述の”犬種によるかかりやすい病気”を頭の片隅に入れながら、早期発見に努めることが大切です。

ALがご家族と共に健康で幸せな毎日を過ごせるよう願っています。

教えてくれた人(この記事の投稿者)

関根 彰子

獣医師

ニチイグループでAL事業を立ち上げた初期から、10年以上ALに関わっている獣医師。
繁殖に関わる親犬や生まれてきた子犬達の健康管理、ALのブリーディングについての助言や調査等トータルに関わっており、ALについての多くの把握している獣医師です。

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