皆さん、介助犬の存在をご存じでしょうか?厚生労働省の指定事業者から訓練と試験を受け、正式に介助犬と認定された上で、身体障がい者の方々の生活をサポートするワンちゃん達です。介助犬は海外では比較的ポピュラーですが、日本では、盲導犬などと比べ、まだそれほど知られておらず、活躍しているワンちゃん達も少ない状況です。そんな中、1頭のオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)が介助犬として認定されたということで、実際の訓練や認定を行っている日本介助犬福祉協会の館山訓練センター(TATEYAMA DOG WORLD 館山ドッグワールド)を訪問しました。ALの新しい活躍の場になるのか?そんな想いを巡らせながら、ニチイ学館でAL事業を管轄する原田が、訓練センター長(前理事長)の川崎さんにお話を伺った内容をご紹介します。
原田:今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。今日は介助犬のデモンストレーションも見せていただけるということで、楽しみにして参りました。よろしくお願いします。
川崎:こちらこそ遠くまでありがとうございます。めったにない機会ですので、是非いろいろとお話できればと思います。よろしくお願いします。
原田:ありがとうございます。それではまず、日本介助犬福祉協会の設立のきっかけから、現在に至るまでのお話を教えてください。
川崎:はい、きっかけは音楽家である母が、自身の音楽活動の中で、当時、日本に数頭いた介助犬の関係者と知り合ったことです。そこで、母が自分にも何か手伝えることがないかと考えた結果、自宅をトレーナーや犬達の訓練所として迎え入れることにしたのです。そこから介助犬への支援が始まりました。
私はその頃、イタリアでアパレル関係の仕事をしていたのですが、初めて母から介助犬の支援の話を聞いた時は本当に驚きました。しかし、母の想いも強かったので、日本に帰ってからは、私自身も少しずつ介助犬の仕事を手伝うようになりました。
そういった中で「身体障害者補助犬法」が2002年(平成14年)10月に施行されました。この法により、介助犬や盲導犬・聴導犬の施設への同伴を促進する活動が始まりました。そして、制度を活用して、身体障がい者の方に介助犬の訓練費用などが給付されることになったのです。そうした事業の運営法人として、2006年に山梨県に設立されたのが山梨訓練センターです。
それから、いろいろなご縁があり、2016年(平成28年)に株式会社ディーエイチシーの元CEO吉田喜明氏からの寄贈という形でこの館山総合訓練センターが完成したため、拠点を山梨からこちらに移転しました。
そして今から4年前の、新型コロナの始まる少し前に、先代の母から私がこの事業を引継ぎ、運営することになったのです。
原田:引き継がれてからはどのような運営を目指されたのですか?
川崎:当初、介助犬の事業というのは、国からの給付金と寄付金で運営するのが基本的な事業モデルでした。当初のスタッフ達も、介助犬のトレーニングの傍ら、駅前やデパートで、資金集めのための募金活動を行うことが日課になっていました。しかし、そうやって寄付金を集めることにも時間的な限界があり、募金に行くと介助犬のトレーニング時間がとれず疎かになる、トレーニングに集中すると募金が集められず運営資金が枯渇する、という非常に厳しい状態の中での運営でした。
そこで、いろいろと思考錯誤した結果思いついたのが、この施設のペンションとしての機能を、“PRペンション”(造語)として活用するアイディアです。簡単に言うと、宿泊料の一部を寄付にあてるという仕組みです。これにより、今までのように募金活動を行う必要がなくなり、スタッフの時間が作れるようになりました。結果、これまでよりも本来のトレーニング業務に集中できるようになったというわけです。
原田:素晴らしいアイディアですね。そんな取り組みの中、実際の介助犬はどれくらい増えたのでしょうか?登録実績など教えていただけますか?
川崎:うちの施設で認定した介助犬の登録頭数は、2022年で累計22頭です。2022年度は4頭の犬を認定していて、現在は2頭を育成中です。一言で介助犬といっても、持って生まれたその子の資質の見極めも必要で、訓練にも時間がかかります。身体障がい者と共に暮らすという点から慎重に進める必要があるのです。
原田:それでは、介助犬の訓練のポイントや苦労されていることなどあれば教えてください。
川崎: 犬に対しての訓練は、その犬を“観察”し、その犬の個性に合わせて訓練していくことが大切と考えていますので、苦労とはあまり感じていません。この辺りは人間の子供と同じです。同じ教育をしても、兄弟それぞれ個性が出るようなもので、それぞれの犬の性格にあった訓練をしていきます。
それよりも、犬と生活する人間の教育の方に苦労を感じます。1つは社会における介助犬に対しての認知度です。今では義務教育で介助犬への接し方などが教育されていますが、我々の世代では、介助犬に関する教育があまりなされていなかったため、介助犬への正しい対応のしかたが社会全体でまだまだ認知されていない感があります。
あとは、実際に介助犬を使う側の人間(使用者)の教育です。介助犬といっても、機械やロボットではありませんので、使用者の接し方一つでいろいろな影響を受けます。そのあたりを使用者が理解していないと、せっかく訓練した成果が出せなかったり、悪い癖をつけてしまったりします。
原田:今回、ALが介助犬に認定されましたが、川崎さんから見て介助犬としてのALはどのように見えますか?
川崎: 結論から言うとALは、“介助犬に向いている”と思います。
理由はいろいろありますが、一つは綺麗好きな日本人にとって、毛が抜けづらい点は、介助犬として様々なシーン(店内や自宅)で活躍するのに大きな利点と思います。それと、もともとの気質が穏やかで、頭がよく、使用者となる飼い主の様子をよく観察する能力がある点も介助犬に適していると思います。
今後、もしかしたら”介助犬=オーストラリアン・ラブラドゥードル”となるかもしれないくらい期待値は高いですね!笑。私はそのくらいこの犬に期待しています。
原田:おっしゃるとおり、毛が抜けづらいというのは、様々な場面でメリットが大きいですよね。それでいて、頭も良いとなると、私達も本当に期待が高まります。それでは、今日は実際の介助犬のデモンストレーションを見せていただけるのですよね。どうかよろしくお願いします。
ここから貴重な介助犬ウィリーのデモンストレーションを見させていただきました。
※介助犬との関わりでは、主従関係が大切であるため、基本的には他人に触らせないことが基本となります。今回はデモンストレーションということで、特別に触らせていただきました。
川崎:日本ではまだまだ介助犬が知られていない状況です。そして、実際に活躍できる介助犬の頭数も全く不足しています。そんな状況を改善していくためにも、日頃の訓練や認定試験はもちろんのこと、介助犬に関する認知・啓発活動にも力をいれていくことが大切だと考えています。今後は、介助犬の素晴らしさと共に、啓蒙として介助犬に対するマナーなどを発信していきたいと考えています。
原田:今回は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。
<おわりに>
取材が終わってから、帰路に着くと、すごくワクワクした気持ちになりました。セラピー犬として様々な場所で活躍しているALですが、毛が抜けづらく頭がよい特性を生かして、さらに新しい分野で活躍の場を拡げていけるのではないか?そんな想いになりました。
そして、この取材の後、弊社ニチイ学館から、1頭のAL、ガネーシャ君を、次の介助犬候補生として日本介助犬福祉協会へ迎えていただきました。今後、成長とともに訓練の様子なども取材できたらと思います!
※ニチイ学館の犬の繁殖・販売事業、グルーミング事業は、2024年3月1日を以て、レイクウッズガーデンへ承継されました。