日本国内のオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のブリーディング(飼育・交配・出産)はどのように行われているかご存じですか?実は、ALを里親に預けて活動を行う「FCHシステム(ファミリーケアホームシステム)」という方法が利用されています。今回は、日本国内で唯一ALのブリーディングを行っているニチイ学館の「ファミリーケアホームシステム(以下FCHシステム)」の仕組みをご紹介します。本記事は、ニチイ学館のFCHシステムの里親の審査にも関わり、ブリーディング施設で管理責任者を務める田口がご紹介します。 これから里親としてALを迎え入れたいと思っている方は、是非この記事を参考にしてください。また既にALを迎えられている方にも見ていただきたいです。
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日本国内唯一のオーストラリアン・ラブラドゥードルのブリーダーは?
オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)は犬種としてオーストラリアで誕生してから、約50年となります。
日本国内でALのブリーディングが開始されたのは、約12年前のことです。日本オーストラリアン・ラブラドゥードル協会(ALAJ)(※) から認定された株式会社ニチイ学館が「FCHシステム」を用いて、現在も計画的にブリーディングを行っています。
※日本オーストラリアン・ラブラドゥードル協会:本家オーストラリアン・ラブラドゥードル協会(ALA)の指導のもと、日本におけるALの保護育成や犬籍登録、血統書の管理を行うために設立された団体です。
オーストラリアン・ラブラドゥードル ブリーダーの役割と責任
オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のブリーディングは誰もが行えるのではありません。
ブリーディング施設への専門獣医師の配置や、ALの遺伝子検査、レントゲン撮影などによる種の保全と健康の確保が不可欠です。また、海外犬舎との情報交換、日本国内の大学病院や専門分野の動物病院などとの連携も必要になります。
ニチイ学館では、このような取り組みの中で、FCHシステムによるブリーディングを行っています。また、全てを一元管理して計画的に行うことで、ALを純粋な犬種として保全していく上で、非常に重要な役割を担っています。
オーストラリアン・ラブラドゥードルFCHシステムの仕組み ALを里親に託す
では、ニチイ学館のFCHシステムとは具体的にどんな仕組みなのでしょうか?
まず、ニチイ学館が保有するオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のブリーディング犬を、審査に合格した里親になるご家族にお預けします。
そして、ALはご家族と旅行に行ったり、ドッグランに行ったりと家族の一員として生活することで、社会性などの資質を高めていくのです。
ブリーディング犬としてのお仕事を引退するまでの間、ブリーディング犬の家族として、生活を共にし、プログラムに基づいた活動を行っていただくシステムです。
オーストラリアン・ラブラドゥードルのFCHシステムのプログラムの実際 ALと里親(FCHファミリー)の生活
本題に入る前に1つ呼称の説明をします。
私達は、里親になるご家族を、“FCHファミリー”と言います。短縮して“ファミリー”と言う場合もあります。もちろんオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のファミリーという意味もありますが、私達と一緒にALのブリーディング活動を行う家族という意味も含まれています。「家族みんなで協力して、飼育から交配、出産、育児を支援し健全な活動をしましょう」という意味です。
それでは本題です。FCHファミリー(里親)がオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のブリーディングに携わるプログラムは、具体的にどんな内容なのでしょうか?少し詳しくご紹介します。
プログラムには、オス・メスともに行う共通プログラムと、オス、メス別々のプログラムがあります。
【共通プログラム】
FCHファミリー(里親)には、お預けしたブリーディング犬と一緒に、ブリーディング講習会に参加していただきます。講習会は2回あります。
- 1回目の講習内容
ALついての基礎知識、必要な予防、遺伝性疾患や検査のこと、女の子のヒートについて知る、ヒート中の注意点、妊娠中の注意点、自宅での生活で注意すること、罹りやすい疾患など学んでいただきます。
- 2回目の講習内容
1回目の復習、体重や食事の管理、給餌の仕方、ALAJ協会による犬種標準など学んでいただきます。
講習会終了後は、同伴のALの健康状態や体型など確認しながら、不安やお悩みの払拭となるようアドバイスを行います。
【メスのプログラム】
- ヒート
ヒート(発情期)が始まり出血を確認すると具体的なプログラム管理が始まりますが、初回のヒートでは交配はせず、2回目以降から交配が始まります。 - 交配
交配が決まると10日間程度、ブリーディング施設へ預けていただき、交配相手とお見合い後、交配となります。そして交配が終わるとFCHファミリー(里親)宅へ帰宅し体調の変化に気を付けながら普段の生活をしていただきます。 - 出産
交配日から出産の予定日を予測し、予定日10日前に再度ブリーディング施設へ預けていただき、健康チェックを行い出産に備えます。出産予定日5日前になるとスタッフによる観察回数を増やし、兆候が表れると24時間体制で出産を見守ります。 - 育児
出産を終えると、育児の開始です。仔犬の健康状態から母乳が出ているか、母犬が仔犬の排泄の補助がうまくできているかなど、母子の栄養管理、衛生管理、健康管理を行います。 - 帰宅
仔犬は母乳から離乳食、ふやかしフード、ドライフードと成長と共に食べる物が変わってきますが、離乳食が始まると間もなく歯が生えそろってくるので、母犬の体に歯を当てるようになるため、母犬は子育てを嫌がるようになります。母犬の育児の状態、健康状態をみながら、7週齢過ぎからFCHファミリー(里親)の家に帰る準備をはじめ、ファミリー宅に帰宅後は育児後の栄養管理、健康状態をしっかり管理していただき、FCHファミリー(里親)と普通の生活をしていただきます。
【オスのプログラム】
- 交配
メスのヒート連絡を受けてから、犬種、血統をしっかり守るために一番適したオスが選ばれます。オスは急な連絡となりますが、これは健全なブリーディングにはとても重要なことなのです。メスとお見合いし、交配がはじまると10日間程度ブリーディング施設でお預かりします。 - 帰宅
交配終了後は帰宅し、FCHファミリー(里親)と普段の生活をします。
オーストラリアン・ラブラドゥードルFCHシステムのルール(メス)
では、FCHシステムの活動期間など、ブリーディングのルールはどうなっているのでしょうか?
ニチイ学館ではオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)の健全なブリーディング活動を行うために、ALAJの倫理規定 にのっとり、以下のように、出産回数や交配のタイミングなど、ブリーディングに関わるルールを設け遵守しています。
<FCHシステムのメスに関するルールの抜粋> ここではメスのルールを一部紹介します。
- 契約期間:お預けしたALの6歳の誕生月の末日までとし、活動する期間の上限を設けることで犬の負担に考慮しています。
- 交配のタイミング:メスは2回目以降のヒートで交配し、出産後は母体の負担を考慮し次のヒートはお休みとし続けて交配しないようにします。
- 出産回数:最高4回とし、生体の負担や引退後の生活など、動物愛護の観点からも遵守しています。
オーストラリアン・ラブラドゥードルの里親、FCHファミリー(里親)になる方法
FCHシステムについて理解していただけましたでしょうか。では、どうしたらオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)のFCHファミリー(里親)になれるのでしょう?
FCHファミリー(里親)になるには、まず、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)情報サイトのFCHシステム案内ページ から申し込みをします。
お申し込み後は、一次審査、二次審査を経て、晴れて合格。マッチングの後、お引き渡しとなります。審査結果を待つ時間はドキドキですね。
- Step1・・・・・申込み
- Step2・・・・・一次審査
- Step3・・・・・二次審査(一次審査通過者)面接
- Step4・・・・・合否発表(お預けするALの紹介)
- Step5・・・・・ALとマッチング(人・先住犬)
- Step6・・・・・お引き渡し(契約)
但し、お申し込みには以下のとおり、いくつかの条件があります。
FCHシステム活動エリア内に居住している
ブリーディング施設より直径にして130㎞圏内に居住されている方が対象となります。ブリーディング施設への移動にあたって、犬の負担とならないように設定されています。130㎞圏外であっても、交通事情や家庭の状況など特段の理由がある場合、参加することができる場合もあります。詳しくはお問合せください。
家族の協力がある
FCHシステムに参加するには、ブリーディングに特化した講習会の受講や健康診断、飼育報告書の提出、ブリーディングに関わる多様な場面でブリーディング施設への来所などの活動が必要になります。家族の理解と協力が無いと活動が困難になります。
日常生活において、ブリーディング活動が優先できる
ブリーディング犬は体調の変化が重要になってきます。特にメスの場合は、ヒート(発情)期間がとても重要になるので、それに合わせた行動が必要になってきます。オスの場合は、メスのヒートの都合で一番適正な血統から選ばれ、出産が無い分、活動回数は多くなる傾向があります。
車が運転できるか
犬の移動には車が必要になります。そのため車を常用していることが必要となります。
以上、いくつかのポイントを挙げましたが、これ以外にも多くの審査内容があります。
厳しい審査に合格された方だけがFCHファミリー(里親)としてALのブリーディングシステムに参加できるようになるのです。
ただ、厳しい審査とはいっても、毎日のお散歩やブラッシング、必要な健康管理など、犬の健康やブリーディングに配慮した生活を送れて、ブリーディング活動にご協力できる環境のご家庭であれば参加できると思います。
無事に審査に合格したら、やっと、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)を家族としてお出迎え。ここでは例をあげてプログラムを紹介します。
【活動例】(*)メス限定
- 生後2~3ヵ月
遺伝子検査実施(在舎中に実施) - 生後6~1歳
ブリーディング講習会(1回目) - 生後9ヵ月
被毛の報告(毛質の確定判断) - 1歳~
最初のヒート報告(*) - 1歳~1歳6ヵ月
ブリーディング講習会(2回目) - 1歳2ヵ月
股・肘関節検査のレントゲン撮影(スコア判定) - 1歳4ヵ月~1歳6ヵ月
股・肘関節検査の結果報告 - 1歳4ヵ月~契約満了
ー2回目以降のヒート報告(*)
ー交配のため、約10日間お預かり
ーファミリー宅へ帰宅
ー約60日後、妊娠判定(*)
ー判定後出産のためお預かり(*)最大4回の出産(*)
ー出産~約50日間育児(*)
ー誕生22日以降、仔犬との面会(回数限定)
ー里親ファミリー宅へ帰宅(*)
ーオスはヒートのメスに合わせて交配で預かり(預かり回数未定) - 引渡し後~契約満了:年2回の飼育報告書の提出(春・秋)
オーストラリアン・ラブラドゥードルの里親、FCHファミリー (里親)になると得られるもの
FCHファミリー(里親)の方は皆さん、迎え入れたオーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)との生活を楽しんでいます。
FCHファミリー(里親)の生活はこんな風に変化します。
- 家族の共通の話題が増え、一緒に出かける機会が増えた
- 自宅に帰る時間が早くなった
- 新しい友達やSNSでのつながりが増えた
- 犬の健康のための散歩や運動で自分自身が健康的になった
- 家族全員で新しい命が生まれる貴重な経験を共有できた
- 子供と交配や育児のことなどを話す機会ができた(教育としてすごくよかった)
- 血統を繋いで行くことに参加し、感動を得ることができた
- 親子犬で家族になることができ、より尊い存在になった
子供から大人まで様々なストレスにさらされていると言われる現代において、FCHファミリーとなることで、オーストラリアン・ラブラドゥードルのブリーディング犬を通じて、癒しを感じることはもちろん、新しい出会いがあったり、ご家族でのコミュニケーションの時間が増えたり、お子様との感動的な思い出になることは、間違いないことでしょう。
もちろん、FCHファミリー(里親)にとって楽しいことばかりではなく、交配や出産でしばらく離れ離れになるので寂しい時もあります。メスの場合、出産後の体型の変化をみて可哀想に思うこともあるようです。
けれども、獣医師をはじめとする出産・飼育担当のスタッフが里帰り中のワンちゃんの生活をしっかりサポートしていますのでご安心ください。また、育児中に面会することも可能です。育児中の面会では、自分の愛犬が一生懸命育児する姿や、その仔犬の様子を見ると、とても愛おしく、何にも代えがたい体験になります。
ALの里親になる まとめ
ALAJ認定ブリーダーであるニチイ学館のFCHシステムについてご紹介しました。
万全の体制と関係機関との連携のもとで、オーストラリアン・ラブラドゥードル(AL)の種の保全と健康管理がしっかりとされていること、また、FCHシステムを担うFCHファミリー(里親)になるための方法やファミリーの生活についてイメージいただけたのではないかと思います。
FCHシステムによるALのブリーディングは、多くの方のご協力があって成り立っているのです。
あなたも是非、FCHファミリー(里親)になって、ALがいる生活や新しい命の誕生をご家族で体験してみませんか?
※ニチイ学館の犬の繁殖・販売事業、グルーミング事業は、2024年3月1日を以て、レイクウッズガーデンへ承継されました。